研究内容のやさしい解説その0:光電子分光を知る為の予備知識


0−7.光電子分光、物性物理でよく用いられる単位について

 光電子分光で最も相手にする事が多いのは電子です。さて、電子1個の質量(重さ)というのはだいたい

0.000000000000000000000000001グラム

です。本当にちっちゃくて軽い事が分かりますね。このような物を相手にするときに日常生活で使う単位(メートル、キログラムなど)を使っていてはそのたびに0を何ヶもつけなくてはならず、間違いの元です。前のページでもやたら0がついていましたよね。物性物理の世界というのは、非常に小さな量を扱う訳で(そのくせ非常に小さな量について調べて日常生活でも見えるような大きな世界の事が解明されてしまうという面白さがあるのですが、それはさておいて)、メートルとかキログラムとかジュールといった単位が不便になり、別の単位を用いる事が多いのです。ここではそれらについて説明します。

0-7-1. オングストローム(長さの単位)

よく用いられる長さの単位です。記号は大文字のAの上に小っちゃい白丸をつけたものです。

1オングストロームは 0.0000001ミリメートル(mm)=1×10-7ミリメートル=0.1ナノメートル(nm)=1×10-10メートル(m)
1ナノメートル(nm)は 0.0000001センチメートル(cm)=0.000001ミリメートル

になります。何でこんな単位が使われるかというと、これで物性物理であつかう長さにちょうどよいからです。例えば

目に見える光(可視光)の波長の範囲はだいたい3900〜7700オングストローム
固体中に並んでいる原子同士の間隔はだいたい
2〜5オングストローム
光電子分光で用いる光(軟X線、真空紫外線)の波長は8〜800オングストローム

となる訳です。

0-7-2. 電子ボルト(エネルギーの単位:eV)

電子の持っているエネルギーを表すときによく用いられまして、eVと記します。定義は

「1個の電子が1ボルトだけ電圧の高い場所に移った時に得られる(運動)エネルギー」

です。ちょっとややこしいですが、物理でならうジュール(J)に直すと

1電子ボルト(1eV)=1.6×10-19ジュール
=0.00000000000000000016ジュール
=0.00000000000000000067カロリー(cal,cは小文字)

となります。ちなみに1電子ボルトの運動エネルギーを持つ電子の動く速さというのはだいたい秒速600キロメートル(600km/s)と相当速いものになります。ちょっと難しいですが、価電子帯のエネルギー幅というのが大体数電子ボルトです。
 
光のエネルギーにも、この電子ボルトを用いる事があります。特に光電子分光ではよく使い、記号でhνと表します。ここで光のエネルギーというのは「1つの光子の持つエネルギー」を指します。光の波長が10オングストロームの時の光子のエネルギーは大体1250電子ボルト光電子分光で用いられる光の波長の範囲は8〜800オングストロームですからエネルギーに直すと15〜1500電子ボルトになります。ちなみに可視光のエネルギーというのは約1.5〜3電子ボルトとなりまして、光電子分光に使うには小さすぎるエネルギーです。



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