唐突ですが金属って何でしょう?ちょっと連想してみると、「電気を流しやすい」「表面に光沢がある、あるいは鈍く光る」という特長を持つものが金属だと言えるでしょう。それでは前ページのようなイオン結合や共有結合によってできた物質・分子はどうかというと、(少なくとも前ページのようなイメージが殆ど正しければ)その中の電子は1つあるいは複数の原子核のまわりをぐるぐるとまわっていて勝手にあちこちに行ける感じではないので、簡単には電気を流しそうにありません。「電気を流す」役割を果たすのは電子でしょうから、やはり金属の中では電子はある程度自由に動き回るはずです。そんな条件を満たすのはどんな結合かというと、その名の通り金属結合なのですが、この模式図を右に示しています。固体を形成するという点ではイオン結合と似ていなくもないですが、金属結合の場合は正負のイオンがくっつくのではなく、同一の原子だけでも十分に結合を作れます。仮想的には
実際に金属は電気を良く流すわけですから、今度は「電子が固体中をなるだけ自由に動き回るにはどんな配列が良いか?」を考えてみましょう。これは殆ど直感の世界ですが、もしも不規則に並んでいると、至るところで電荷の偏りが生じてしまい、そこに電子がトラップされる可能性があります。規則的といっても「中に穴が空いているような」規則性ではやはり妙な電荷の偏りが生じて電子が至るところを動き回ることはできないでしょう。また前ページの共有結合の説明で、原子核同士の間がある程度以上短くならないと電子を「共有」できないのも明らかです。そうなると結局「なるだけすき間なく一番外側の電子軌道がとなりとよく接して電子が自由に飛び移れるように、かつ規則的に陽イオンを配置する」のが一番電子がスムーズに動け、結果として電荷の中性も空間的に満たされることになるわけです。つまり固体金属というのは「原子が規則正しく並んだ結晶の集まり」というのが実情になります。どんな配列になるかは元素によって異なりますがそれも元素の数だけ異なるのではなく、面心立方格子(食塩NaClの片方のイオンの並び方)、体心立方格子、六方最密格子といった数種類の配置方法、あるいはそこから派生した似たような配置方法で分類できます。つまり規則正しく並ぶというのが実際に「お得な」結合方法であって、わりと綺麗に結晶が作られるわけです。もちろん欠陥や不純物を全く含まない物質など存在しませんが、それでも後で説明するように、無限に規則正しく並ぶという前提で考える物理で現実を説明できるのですから、これは考えてみるとすごいような気がします。
実際の金属で、仮に1mm立方としましょう、この大きさの金属がきちっと単一の方向性を持ってならんでいるかというと、特に工夫をしない作り方をした場合はそんなことはありません。金属や結晶の塊で(ほんの少しの欠陥や不純物は無視して)全体で一つの方向を向いている、その塊のどの部分を見ても全く同じ方向性を持って配列をしているものを「単結晶」と言います。これは物性物理の研究をするのには重要ですが、実は、固体物理の基礎研究分野において様々な物質で単結晶を作る技術というのは日本の結晶作成研究グループは本当にすごいと思います。今や外国の研究者も日本人の作った単結晶をもらって研究する例は山ほどありますから。それはさておき日常みることのできる単結晶というのは食塩とシリコンウエハーでしょうか?金属固体の場合は特に工夫をしなければ「小さい単結晶がばらばらの方向を向いてくっつき、全体としては方向性がない」という「多結晶」の状態で存在します。この「小さい単結晶」が仮に1μm(=10000Å)四方だとしても、原子間隔はその数千分の1なので、やはり原子レベルから見たら非常に大きな集合体になります。ここでひとつだけ注意しておきますと、多結晶は(ガラスなどの)アモルファスとは異なります。前者は規則正しく並んだ小さな集合体がバラバラにくっついている状態なのに対し、後者のアモルファスというのは、そもそもどこをどんなにミクロな目で見ても規則性がない、いってみれば液体がそのままの状態で固まったものです。
とここまで書いておいてなんですが、実際の金属のほぼ全てが上記の金属結合で全て説明がつくわけではなく、実際には電子が自由に動き回っているとは限りません。あくまで概念の一つと思ってください。それは実はイオン結合や共有結合にも言えることで、実際の物質ではこれらの結合の中間的な性質をもつ、なんてことも珍しくないです。まあここの説明で「うむ、分かった」で全部済む位なら金属あるいは金属の性質を示す物質の研究なんてもうやる必要はそんなにない訳で、実際にはまだまだ未解決な問題や新たな可能性がいくつもあるから物性物理というのは世界中の研究者が幅広く研究している訳です。その、まだまだ未解決な問題についてはおいおい説明していきましょう。
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