前ページで金属は結晶になっていて、結晶とは原子・イオンが空間的に規則正しく並んだものであると説明しました。これは単体金属だけでなく、食塩NaCl等複数の異なる元素・イオンから構成される場合でも規則正しく並ぶという点で同じです。これは固体物理の用語を使うと「結晶は並進対称性をもつ」という表現になります。そして、この周期性こそが、物性物理・固体物理の展開に非常に重要な役割をもっていることをここで説明します。
では結晶の電子状態はどういう特徴を持つのか、という前に気体原子・分子の電子状態についておさらいをしておきましょう。量子力学あるいは現代物理学を説明した著書・文章等で「量子力学の世界、原子や分子程度の非常に小さいスケールでは、エネルギーは日常考えられているような連続的な値ではなく、離散化、すなわちとびとびの値をとるようになる」という事が書いてあるのを読んだ人もいるかと思います。これは実際にそう考えないとつじつまが合わないし、原子・イオン中の電子のエネルギーがとびとびになっていることは量子力学の教えるところでもあります。この解説ページでもここまで何度か図示してきた原子模型もそれを暗黙の前提にしているところがありました。実際、水素原子中の電子を記述するシュレーディンガー方程式を解くと、電子の取り得るエネルギー(エネルギー準位と呼びます)がとびとびの値しかとらないし、この特徴自体は水素原子に限らず他の元素でも同様なのです。
ところが、配列に周期性を持つ結晶になると、その中の電子は量子力学に従いながらも、もう一回事情が変わります。右図のように、あるイオンが無限(正しくは十分に多い数だけ)に規則正しく並んでいる結晶を例にとります。この結晶中の「ある場所」の電子状態はどうなっているか、という事を考えてみますと、勿論どんな元素でどんな結晶構造で云々という事が分からない限り詳しいことは知りようがないのですが、一つだけ言えることがあります。それは
さて、固体結晶ではバンドという、非常にエネルギー間隔の狭い連続的と言える軌道が形成されるとして、もしもそのバンドの途中までしか電子が詰まっていなければどうなるでしょうか?一番エネルギーの高い、これをフェルミ準位と呼びますが、この状態の電子は、ほんの少しだけエネルギーをもらえば簡単に「より自由に、より激しく」動き回れるようになります。ですからちょっと電圧をかけると簡単に電流が流れる。そうです、金属というのは「バンドの途中までしか電子が詰まっていない物質」のことなのです。では金属では全ての電子がバンドに詰まっているのか、というとそうではなく、元の原子の時にエネルギーの高い原子軌道をもっていた電子だけがバンドにつまっていて、より原子核の近くにいた電子は相変わらず元の原子核をまわっているという描像になります。それを模式的に示したのが右図で、元からエネルギーの低い電子(これを内殻電子とよびます)は原子1個で存在していたときと固体中でもそう変わらないのです。ここで「あるバンドに過不足なく電子が詰まった状態の物質はどうなるのか?」という疑問を持つ人がいるかもしれません。実はそれは非常に重要な話で、次の次のページで説明することにしましょう。
(ちょっと大学生向けなコメント)このページで説明した話は、結晶中の電子状態を決める上で重要な「ブロッホの定理」そのものです。物性物理、固体物理などの講義では必ず出てくると思いますが、しっかり理解しておきましょう。
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