研究内容のやさしい解説その0:光電子分光を知る為の予備知識


0−4.そういえばエネルギーって何?

 エネルギーという言葉は日常生活でも無意識に使われていますから、皆さん何となくイメージがあると思います。しかし逆にそれ故に物理量としてどういうもので、どういう意味なのか、と問われると「あれー?」という方も多いかもしれませんね。ここでは高校の物理の復習(あるいは予習?)なんてやぼな事はちょっと脇において、まあこのページを読んでいってください。

 日常生活でなじみがあるのはもっとなじみがあるのは「電力」という言葉でしょうか?この電力はエネルギーと密接にかかわっています。しかし、電力とエネルギーは同義語ではありません。ではどういう関係にあるかというと、電力とは

単位時間あたり(例えば1秒間)に消費、あるいは供給するエネルギー

のことです。どこの家や会社でも毎月電気料金を「使った」分に応じて電力会社に支払っていますが、この「使った」というのは「使ったエネルギー」のことになります。長さにメートルとかキロメートルとかという単位があるように、電力にももちろん単位があり、それはW(ワット)と言います。「100Wの電球」とかって言っているそのワットです。電気料金請求の為のメーター検針の結果を見てみると分かりますが、電気料金算出のもとになる「消費したエネルギー」というものの単位は「kW・h」(キロワット・アワー)と小っちゃく書いてあります。これは「電力」x「時間」という単位になっているので、まさにエネルギーの単位になっているわけです(先程の電力の説明の逆を考えれば良いのです)。ちなみに高校で物理を学ぶとエネルギーの単位は「J」(ジュール)だと教わりますが、このジュールとキロワット・アワーの関係は

1キロワット・アワー = 3600000ジュール

になります。ちなみにこれが実生活でどれくらいのエネルギーかというと、360万ジュールなんてすごい量に一見みえますが、実は一般家庭のお風呂のお湯(180リットルとします)の温度が5度上がる程度のものです。さらにこれだけ使った時にかかるお金は20円ちょっとのようです(関西電力エリアでは)。それから強力ドライヤー(1200W)を1時間つけっぱなしにすると、1.2キロワット・アワーです。

 さてさて、ここからちょっと物理の話になりますが、高校で物理を学んだ人の中には、やたらめったら計算させられて訳分かんなくなった、なんて人もいるかもしれません。例えば右図みたいなのが教科書でよく出てきて、「質量mの物体が地面から測って高さhの所を速度vで動いているとき」の、物体の「位置エネルギーはmgh」であり、「運動エネルギーはmv2/2」である、なんて。で、さらに進むと、「このmgh+(1/2)mv2が一定になり、これをエネルギー保存則という」ってことになります。なんで高校の物理でエネルギー保存則を使って問題を解かせるか、物理の先生はなんでエネルギーってものにこだわるのかというと、結局のところこの

エネルギー保存則

が世の中の、それこそミクロな原子の世界から巨大な宇宙の天体の動きの世界にわたって成り立っていて重要だからなんです。古代の哲学者の言葉に「万物は流転する」というのがありますが、実際世の中いろんなものが動き回っています。しかし、先程の図のような、単純な物体の運動を考えると、動き回る中にもこの物体は「エネルギー保存則」を保っています。それゆえに物理の言葉を使って、その物体の往く先が予言できるという訳です。

 なんて事を書いていると、「いやいや、実際には摩擦だなんだとかで物体の動きは地面に落ちたあといつかは止められてしまうではないか」と言う人がいるかもしれませんが、その通りです。っていうか、「原子のように」ミクロでもなければ「宇宙のように」壮大でもない、中間の日常生活では単純にエネルギー保存則が成り立っているという場面は少ないですよね。でも、そんな場合でも摩擦やら空気抵抗やらで逃げていったエネルギーというのは物体の失った「力学的エネルギー」に等しいという意味では広い意味でエネルギー保存則が成り立っているとも言えます。

 ここでこれから紹介する「光電子分光」とか「物性物理学」の世界でも、もちろん全エネルギーが保存する、というのは研究を進めるうえで重要な手がかりになります。むしろ日常世界よりもエネルギー保存則がきれいに成り立っている事が非常に多い世界です。ちょっと話はそれますが、「摩擦」について。「物と物がこすれて摩擦熱になる」という事ですが、これをもっとミクロな世界で見ていくとどうなるのでしょうか?原子と原子がこすれる?でも原子に傷がつくなんてちょっとなさそうですよ?一体どうなっているのですかねえ? 実はこの摩擦の問題は「原子レベルでどうなっているか」という事はまだ解明されていないのです。ちょっと意外かもしれませんけどね。
 次のページでは、物性物理、固体物理で主役級の役割を果たす電子のエネルギーについて説明しましょう。





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