「光や電子がどういうエネルギーを持つか」という前に、もう少し想像しやすいところから始めましょう。ってなるとどうしても高校の物理のような話になってしまうのですが、まあちょっとおつきあいください。右図のように、質量(日常生活では重さと言っているものです)mの止まっている(速さ0の)ボールが2つあって、一つは他方に比べて高さhだけ高いところにあるとします。この場合2つともボールは止まっているので何て事もないのですが、ここで高いところのボールが落ちて、低いところのボールと同じ高さに来た瞬間を考えてみましょう。このとき、落ちてきたボールの速さはもちろん0ではなくていくらかの速さvを持っています。この時の速さを求めよ、となるとまさに物理の試験といった趣になるのですが、参考までに答えを示すと、これは重力加速度をgとして
となりますから、
というのが答えです。ここで重要なのは(当然だと思う方もいるかもしれませんが)「速さが0ではない」ということです。同じ高さに達したボールの速さが0ではなくて、もう一方のボールの速さが0ということですが、止まっている物が動くようにするにはエネルギーを必要とします。ではここで動いているボールはなぜ動けるようになったかというと、もちろん元々hだけ高いところにあった為です。すなわち「もう一方のボールよりも余計に高かった分だけの」エネルギーをもらったという事になります。高いところにあったボールは、高いところにあるというだけの理由で低いところのボールよりも大きなエネルギーを持っていると考えられます。これが物理でいうところの「位置エネルギー」というものです。
では電子のエネルギーというのはどんなもんでしょうか?電子は非常に軽いですが、0ではない重さを持っています。ここでその重さをmeとすると(具体的な値は次ページを見てください)、電子が速さvで動いているときは電子は(1/2)mev2という運動エネルギーを持っています。では「電子にとっての位置エネルギー」というのは何に相当するというと、それは「電圧」です。電線の鉄塔にいくと「高電圧危険」と表示されている、あの電圧です。電子はマイナスの電荷(電気の素)を持っていまして、電圧が低いところから高いところへ行きたがる性質を持っています。水が高いところから低いところへ流れようとするのに似ていますが、向きは逆ですね。「高さ」に比べると「電圧」という概念が分かりにくいのは無理もないですよね。だって「高電圧」のところは色が変わっているとかってことはないですからね。逆に言うと電圧は目に見えないからこそわざわざ「危険」と張り紙をしておかないと分からない訳です。よく乾燥した冬の日に金属製のドアに触るとバチッと静電気が来て痛い思いをすることがありますが、あれは人間が知らぬ間に帯電して、人間の電圧がドアの電圧(普通は接地されていますね)と違っている為に電子が移動するという現象です。
ではやっとこさ本題に入りましょう。電子の「位置エネルギー」に相当するのは「電圧」だと書きましたが、もう少し正確に言うと、「電圧に電子の電荷を掛けたもの」が電子の「位置エネルギー」になります。ここで通常は位置エネルギーという言葉を使わず、「潜在的なエネルギー」という意味をもつ英語のpotential(ポテンシャル) energyという言葉を使います。位置エネルギーというのも潜在的なものですから、ポテンシャルエネルギーというのは総称です。電荷という言葉は前にも出ましたが、これは電気の素となるもので、電子の電荷は
です。「クーロン(Cとも書きます)」というのは電荷の単位で、「クーロン(Coulomb)の法則」に出てくるクーロン(クローンじゃないですよ、念のため)と同じです。もう少し単位の話をすると電圧の単位は「ボルト(V)」で、この2つの単位を掛けた「クーロン・ボルト」がエネルギーの「ジュール(J, 前ページに出てきましたね)」と同じになります。ですから+100 Vのところにいる電子のポテンシャルエネルギーは
となります。もう少し後でお話しますが、固体中の電子というのは、微視的には原子核の作るポテンシャルエネルギーのなかを動き回っていて、その様子を詳しく調べるのが光電子分光を行う目的の1つなのです。
あれあれ、結構な長さになってしまいましたね。では光のエネルギーについては次のページでお話するとしましょう。
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