レーザー光電子分光

関山研究室では励起波長210 nm(励起エネルギーにして5.905 eV)の紫外線レーザーを用いたレーザー光電子分光装置を近年立ち上げました。レーザーのパルス時間幅および光電子検出器のパラメーター最適化及び電源系統の安定化をすることで現在、エネルギー分解能が最高540 μeVの超高分解能バルク敏感測定を行うことが可能となっていますが、200 μeV以下のエネルギー分解能を目指して日々装置の調整を行っています。He流入型の冷却装置を用いて熱輻射対策を施すことで最低温度2.8 Kまで測定試料を冷却することができます。また、温度制御プログラムを構築することで試料冷却機能が格段に向上しています。加えてビーム品質管理のためのモニタリングシステムの構築、レーザーの位置とスポットサイズを常時モニターするための長焦点顕微鏡カメラシステムの構築することで、測定精度をあげています。この装置を用いてフェルミ準位極近傍の微細電子構造の観測を行い、強相関電子系における(銅酸化物/鉄系)高温超伝導や重い電子といった低温現象の解明を遂行します。さらに、測定が非常に困難であった有機導体の電子状態観測にも挑戦していきます。
■仕様
電子分光器:MBS A-1 (スウェーデン・MB Science社)
励起光源:5.905 eV (Ti-Sapphireレーザーを基本波とし、β-BaB2O3結晶による第四高調波を使用)
冷却機構:4He流入式横型クライオスタット
■性能
エネルギー分解能:>540 μeV
角度分解能:>±0.1 deg.
最低到達温度:>2.8 K
温度制度:±0.1度
測定時真空度:<5×10-9 Pa


■レーザー光電子分光を用いた電子状態観測例
<従来型超伝導体V3Siの電子状態観測>
初めて発見された超伝導の発現機構はBCS理論として知られており、固体内部の原子核の振動(フォノン)を媒介とした電子のペアが形成されることで起こります。これを従来型超伝導体と呼びます。
我々は超伝導転移温度が17 KであるV3Siに対して温度変化測定を行うことで超伝導ギャップの大きさと転移温度の相関を得ることに成功しました。また、BCS理論で導かれる超伝導ギャップの大きさと転移温度の相関と一致することから、V3Siでの超伝導機構はBCS理論で説明できることを見出しました。


<非従来型超伝導体:銅酸化物高温超伝導体の運動量分解観測>
液体窒素以上の温度(90 K)で超伝導が発現する銅酸化物高温超伝導体はBCS理論で超伝導発現機構を説明できないことから非従来型超伝導体の一つに分類されます。この高い超伝導体の発現機構を解明することは、室温超伝導体の物質創成に非常に重要となってきます。 関山研究室では紫外線レーザー光電子分光を用いた超高分解能運動量分解観測を遂行することで超伝導状態において形成される電子のペアの微細電子状態観測を行っていきます。これまで我々はBi系高温超伝導体に対して運動量分解観測を行っており、非常に明瞭なバンド分散を得ることに成功しています。



■挑戦課題:時間分解測定を目指した光学系の構築
半導体の光学特性や超伝導状態を安定性に関する評価をする上で重要な情報に励起子の寿命があります。関山研究室では基本波をポンプ光、紫外線レーザーをプローブ光とした光学系を構築することで時間分解角度分解光電子分光を遂行していきます。これにより寿命の運動量依存性を調べることで、光学特性などを左右する伝導電子を解明していきます。

■挑戦課題:有機超伝導体の電子状態観測
光電子分光は励起エネルギーが強いために、測定中に有機導体が劣化してしまい本質的な電子状態を観測することが非常に困難になります。さらに冷却過程により単結晶試料内で電子状態が不均一になるため、測定位置によって結果が異なってきます。我々は構築した冷却制御・測定試料観測システム、高強度・極低エネルギーである紫外線レーザーを用いて、有機導体の電子状態解明を試みています。