主な発表論文
ここに掲載したものは全て別刷りの在庫あります。御連絡いただければ送付致します。
なお、大学院生時代(有機導体関係)の成果については「博士論文の要旨」をご覧下さい。
「バルク敏感高分解能共鳴光電子分光で見た重い電子系Ce化合物のバルク4f電子状態」 大型放射光施設SPring-8の超高分解能軟X線ビームラインBL25SUにおいて、私たちは880eVという高い励起エネルギーを必要とするCe 3d-4f共鳴光電子分光を重い電子系CeRu2Si2及びそれより混成の弱い強磁性体CeRu2Ge2に対して高いエネルギー分解能で行いました。これによって従来行なわれてきた高分解能光電子分光では分からなかった、物質内部(バルク)の情報を得ることが可能になります。近藤温度TK〜20 Kで常圧下低温まで磁気オーダーを見せない、所謂典型的な重い電子系であるCeRu2Si2ではこれまでの光電子分光では確認出来なかったバルクの近藤ピークの裾をはっきりと観測しました。一方近藤温度TK<1 Kで混成がCeRu2Si2よりも弱いと考えられているCeRu2Ge2では、近藤ピークの裾が著しく弱められていることも確認できました。これはバルクとは大きく異なる表面電子状態を強く観測してしまうCe 4d-4f共鳴光電子分光等ではこれまで確認できませんでした。
そして、得られたバルクCe 4f光電子スペクトルを詳細に解析した結果、両物質とも不純物アンダーソン模型にもとづいた計算が実験結果及び近藤温度をよく再現する事が分かりました。また、光電子スペクトルから的確な近藤温度を見積もるにはCe 4f軌道の結晶場分裂を考慮することが不可欠である事を見いだし、両物質の結晶場分裂(各物質につき2つの値があります)をCeRu2Si2で52 meV及び69 meV、CeRu2Ge2で43 meV及び69 meVと見積もりました。
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「高分解能共鳴光電子分光で見た強相関系物質のバルク電子状態」 大型放射光施設SPring-8の超高分解能軟X線ビームラインBL25SUにおいて、私たちは1000eVという高い励起エネルギーでエネルギー分解能100meVという分解能で光電子分光を行う事に世界で初めて成功しました。これによって従来行なわれてきた高分解能光電子分光では分からなかった、物質内部(バルク)の情報を得ることを可能にしました。そこでCe 3d-4f 共鳴光電子スペクトルを重い電子系CeRu2Si2(近藤温度TK〜20 K)及び価数揺動系CeRu2 (TK〜1000 K)について測定しました。その結果、これらのスペクトル形状は従来行なわれていたCe 4d-4f 光電子スペクトルのそれと、フェルミ準位近傍においても大きく異なりました。近藤温度の低いCeRu2Si2では近藤ピークの裾をはっきりと観測しましたが、その強度は以前行った4d-4f 共鳴光電子スペクトルに見られたものよりも強いものでした。これはスペクトル形状が不純物アンダーソンモデルで(少なくとも定性的には)説明できる事を示します。これに対し近藤温度が非常に高いCeRu2では近藤ピークの裾はバルク電子状態を反映した3d-4f 共鳴光電子スペクトルでは観測されませんでした。これは近藤温度が非常に高い系では、Ce 4f 電子とまわりの価電子との混成が非常に強いことから、Ce 4f 電子は遍歴的になり、「バンド」として考えるべきだという事を示しています。同時に、このような系では不純物アンダーソンモデルはもはや破綻している事も分かります。
私たちが今回行った実験は他の強相関系物質、例えば高温超伝導体といった遷移金属酸化物にも有効なのではないかと考えております。
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「Yb4Bi3のYb 4f 光電子スペクトルの奇妙な温度変化」
Yb4Bi3は、価数揺動−電荷秩序転移を起こすYb4As3と同じ結晶構造を取りますが、電荷秩序転移は起こしません。私たちはYb4Bi3について光電子分光を試料温度20, 150, 300Kで、放射光施設Photon Factory BL-3Bにて125eVの励起光で行いました[Yb4As3についてはS. Suga et al., J. Phys. Soc. Jpn. 67, 3552-3560 (1998).を参照してください]。この励起光では、主にYb 4f 電子状態を反映したスペクトルになります。測定した結果、Yb3+からのスペクトルへの寄与はどの温度でも見られず、Yb4Bi3のYbイオンはほぼ2価である事が分かりました。これは価数混合するYb4As3とは異なる点です。また、この物質は相転移等がないにもかかわらず、バルクYb2+ 4f ピークのエネルギーが温度変化し、低温になる程フェルミ準位に近づくといういささか奇妙な(というか他では殆ど観測された事のない)結果を得ました。これは温度降下によって格子定数が小さくなることで"疑似的な"圧力効果が生じ、低温ではYb2+がより不安定になるからではないかと考えられます。
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「CeNiSn及びCePdSnの高分解能Ce 3d-4f 共鳴光電子分光」 この論文は前述のNatureに掲載されたものよりも前にSPring-8のBL25SUで実験したもので、まだ分解能はhn〜880eVにおいて220meVが最高という状態でした。それでも以前のCe 3d-4f 共鳴光電子分光の分解能よりも3倍も良いものです。
CeNiSnは近藤温度50K程度の、近藤半導体と呼ばれるもので、低温でのみ狭い擬ギャップが開くと考えられている物質です。これに対し同じ結晶構造をとるCePdSnは低温で反強磁性オーダーする、典型的な近藤物質と考えられます(すなわちCeイオンはほぼ3価という訳です)。私たちはこれらの物質に対してCe 3d-4f 共鳴光電子分光をSPring-8 BL25SUで、Ce 4d-4f 共鳴光電子分光をPhoton Factory BL-3Bで行いました。Ce 4f スペクトル形状は両物質で異なるのは勿論のこと、Ce 3d-4f 共鳴と4d-4f 共鳴でも大きく異なりました。これは3d-4f 共鳴では主にバルク(物質内部)の、4d-4f 共鳴では主に表面の4f 電子状態を反映している事によります。また、3d-4f 共鳴によるCe 4f スペクトル形状は、不純物アンダーソンモデルで近藤温度と共に半定量的に再現できました。また、Ce 4f 電子以外の電子状態を反映する非共鳴スペクトルをCe 3d-4f 及び4d-4f 非共鳴で比較すると、Ni 3d あるいはPd 4d, Sn 5p といった電子状態は表面とバルクでそれほど変わらない事も分かりました。これは両物質共不純物アンダーソンモデルが適用できるような、混成のそれほど大きくない系だからではないかと考えています。
「電荷整列を起こすNd0.5Sr0.5MnO3の光電子分光」 ペロブスカイト型Mn酸化物は、巨大磁気抵抗効果を示すことから近年注目を集めています。また、Nd0.5Sr0.5MnO3 (x=0.5)は約160Kで強磁性金属−電荷整列(反強磁性)絶縁体転移を起こす事が知られています。しかし組成が僅かにずれたNd0.53Sr0.47MnO3 (x=0.47)は電荷整列を示さず、低温まで強磁性金属です。このMn酸化物における強磁性は古くから二重交換相互作用によるものと考えられてきましたが、それだけでは説明ができないという説もあり最近再び研究が活発に行なわれています。
私たちはこれらの系に対して光電子分光を行い、電子状態を調べました。まずx=0.5に対してMn 2p-3d 及びNd 3d-4f 共鳴光電子分光(これはPhoton Factory BL-2Bで測定)を行ったところ、Mn 3d 及びNd 4f 電子はO 2p 電子と強く混成している事が分かりました。次に両物質に対して、価電子帯高分解能光電子分光を行いました。実験はPhoton Factory BL-3Bで、励起エネルギー55eV、分解能約45meVで行いました。広いエネルギースケールでは相転移に伴うスペクトル変化は顕著ではありませんでしたが、フェルミ準位近傍のスペクトル形状は、x=0.5では相転移温度の上下でスペクトルが変化し、低温において電荷整列に伴うエネルギーギャップが100meV程度のオーダーで開いている事が分かりました。これに対してx=0.47ではどの測定温度(20, 110, 140, 170K)でも金属的なスペクトルでした。また、これらのスペクトル形状からMn 3d 電子の電子相関が強い事が分かりました。
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